バースディ ・6

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「おねえちゃ〜ん・・・まっくらでなにも見えないよ〜」
 サラは目隠しをされ、エレンの手に引かれながら歩いていた。ゆっくりゆっくり、一歩ずつ身長に歩を進めていく。
「もうすぐだから我慢して、ほら、もうすぐだよ」
 エレンはサラを優しく励ましながら、サラのスピードに合わせて、サラの手を引いていた。
 村の広場では、今頃合同慰霊祭が行われているのだろう。道にはエレンとサラ以外、人影を見つけることはできなかった。
 ところで、原則的に全員出席が義務付けられていた合同慰霊祭に、どうしてエレンとサラは参加していないのか?それは、子どもが退屈して騒ぎ出すのを避けたいという、村人側の強い希望が通ったからだという。だから、慰霊祭に行きたくない子どもは、行かなくてもいいことになっているらしい。
 やっとの思いで、エレンはこの場所にたどり着いた。村で唯一の酒場兼宿屋。ここが、今回、グレイト・フェイク・ショーが開催される場所だった。
「さあ、着いたよ、サラ。あ、ここ段差があるから気をつけな」
 ゆっくりゆっくり、サラは階段を進んでいく。そうして、酒場の中に入り、椅子に座らせられたところで、サラはやっと目隠しをとることが許された。
「まっくら〜」
 目隠しをとっても、サラの目の前は暗闇であった。まだ昼間はずなのに、どうしてこんなに暗いのか、サラは不思議でならなかった。
 パッ……瞬間、一条のスポットライトが、黒を引き裂くようにしてサラの目の前に降り注いだ。
 クルクルと暗闇を見回していたサラは、突然現れた白い光に、目を奪われてしまっていた。
「レディース・エーンド・ジェントルメーン」
「わ〜……」
 光の先に現れたのは、水玉模様がいっぱいの洋服を着て、顔を真っ白に塗りたくったピエロだった。
「ようこそ、お嬢さん。グレイト・フェイク・ショーへ。今からお嬢さんを、不思議な魔術の世界へ、いざなって差し上げましょう」
 ピエロは大仰な一礼をすると、再び暗闇の中へと消えていった。
 この演出に、サラは早くも引き込まれていってしまったようである。
 どきどきと期待に胸を膨らませながら、サラは今か今かとステージが始まるのを待ち続けた。
 一番最初に始まったのは、世界最高のマジシャン、トミーのマジックショーである。
 サラはトミーが手に持っていた棒が消えたり、帽子からハトが出てきたりするたびに歓声を上げ、瞬きをすることも惜しんで、アンコールをせがんだ。
 やがて、トミーが自分自身を消すマジックで消えてしまった後、先ほどのピエロが登場。五個の卵を使ったお手玉や、逆立ちしての玉乗りなど、様々な曲芸を披露した。
 ピエロは、時折曲芸に失敗したりして、サラを大いに笑わせた。剣を飲み込んで見せたときなどは、サラは息を呑んで見守っていたが、体の向きを変えて飲み込んだ振りをしていたとわからせると、サラは笑いながら「うそつきー」と野次を飛ばしたりしていた。
 あまりにもピエロが曲芸に失敗するので、今度はピエロのお仕置き人、ミス・エレーナがやってきた。
 ミス・エレーナは、ピエロを壁にくくりつけると、投げナイフでピエロにお仕置きを開始した。
 まずはナイフでリンゴの皮を剥いてみせる。ほら、きれいに剥けました……といったところで、そのリンゴはサラにプレゼント。
 そうして、それから本番開始。クルクルと回転しながら飛んでいくナイフは、ピエロの体のすぐ横の壁に、次々に突きたてられていく。サラはピエロが危なくなると、両手で目を隠しながら、それでも隙間から覗きながら、ナイフ投げのスリルを楽しんでいた。
 ショーもクライマックスに入り、ステージにはピエロとトミーとミス・エレーナの三人が登場。
 サラのために歌のプレゼントをするのが、その日最後のサラへの贈り物であった。

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