バースディ ・4

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「すごいじゃん、おっさん!あんな詩を詠えるなんてさ!!」
 客も引いて、ようやく一段落し始めた店内で、ユリアンは詩人と少し話しこんでいた。いや、話し込むというより、ユリアンが一方的に話しかけているだけだろう。
「いやいや、それほどでもありませんよ」
「そんなことないって!すごかったよ、おっさん!!」
 やはり、一番最初に新しい詩を聞いていたギャップのせいもあるのか、ユリアンの感動はひとしおだった。エレンとトーマスは、新しく飲み物を頼んで、二人で何事かを話している。
「おっさん、あの聖王の詩、いったいどこで教えてもらったの?オレにも教えてよ!」
 ユリアンの目は輝きを増し始めている。詩人はフィドルの調整をしていた手を少し休めて、ユリアンをまじまじと見つめた。そうして、フッと、詩人は自嘲するかのように小さく笑った。
「あなたには、あれが聖王の詩に聞こえたのですか?」
 それは、ユリアンが考えもしなかった返答だった。
「え?それって……」
「いえいえ、何でもありませんよ。そうですね、あれは、私を育ててくれた人が教えてくれたんですよ」
 ユリアンの言葉を遮るように、詩人はいつものにこやかな声を出して、先ほどのユリアンの質問に答えていた。
「おっさん――!」
「はい、何でしょう?」
 もう一度……もう一度、ユリアンは言いかけたことを言うつもりだった。だが、言えなかった。それは聞いてはいけない質問のような気がしたのだ。
「あの、さ。悩みがあるんだ。聞いてくれない?」
「……ええ、構いませんよ」
 表情は見えないが、ユリアンは詩人がなんだか微笑んでいるような気がしてならなかった。
 ユリアンは、サラの誕生日のことについてを、淡々と語っていった。
 詩人はたまに頷きながら、フィドルを操る手も止めて、ユリアンの話に聞き入っていた。
 やっとすべてを語り終えた時、店内にはまた徐々に客が増え始めていた。
「それで、あなたはそのサラさんという人を、グレイト・フェイク・ショーに連れて行きたいと思っているんですね?」
 詩人は演奏の準備を始めながら、手短にそう言った。
「そうだよ、でもそれができないから困ってるんだ」
「なにを困る必要があるんですか?」
 詩人は心底不思議そうにユリアンに訊ねる。
「なにって……だからサラを連れて行けないことに困ってんの!」
 さすがのユリアンも、要領を得ない詩人の問いかけに、イライラしてきたようだ。
「困ることはないでしょう?連れて行けないのなら、連れてくればいいんですから」
 詩人はすっくと立ち上がると、いつの間にやら出来上がっていた、店の真ん中のステージにさっさと歩いていってしまった。
「つれて……くる?」
 ユリアンは、詩人の言った言葉を、頭の中で何度も何度も反芻し続けた。

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