Sketch〜その思いは永遠に〜



 どこまでも続く黄金の海。
 そこは、乾いた風によって、いつもその姿かたちを変える。
 あたかも、本当の海のように……


 フィガロ城。
 見渡す限りの砂漠という不毛の土地にそびえ立つ、機械文明の先端とも言える城だ。
 地中を潜航する能力を持つがゆえに「神出鬼没の機械城」という名を冠したこの城は、現在、度重なる事故や「瓦礫の塔」の崩壊によって行われつつある王国の再建によって、大幅な修理、改築作業が行われていた。
 連日連夜、さまざまな人々が立ち働き、機械音や廊下に鳴り響く忙しそうな足音が途絶えることは無かった。


 フィガロの若き王、エドガーもそんな中の1人だった。



「……ガー様。エドガー様!」
「おっと……!」
 不意に呼びかけられた声に驚いて、エドガーは意識を取り戻した。
 ぱさぱさと音を立てて、いくつかの書類が床へと散らばる。
 呼びかけられた声の方を振り向くと、そこには書類を拾い上げながら、エドガーを心配そうに覗き込む侍女の姿があった。
「大丈夫ですか?エドガー様。やっぱり、少しお休みになられたほうが……」
「いや、大丈夫さ。私としたことが、少し居眠りをしてしまったらしい。ありがとう、心配をしてくれて」
 エドガーは少し頭を振ると侍女へ微笑みを返した。


 エドガーは誰から見ても、美形に入る部類の男だ。
 いや、エドガー自身もそう自負しているのだろう。
 木漏れ日を集めたのではないかと思われるほど、淡く輝く金髪。
 空の自由さと、湖の底の穏やかさを合わせたような蒼い瞳。
 もはや芸術としか表現できない整った顔立ち、均整のとれた体。
 ただ黙って微笑むだけで、大抵の女性なら一瞬のうちに心を奪われてしまうだろう。
 エドガーは、まさに「美」そのものとして生まれてきたような男だった。
 しかし、そんな彼にも少し問題があった。
 ……むしろ、そんな彼だからこそ、ともいえなくも無いが。


 エドガーは侍女に微笑を返した後、おもむろに立ち上がると侍女の手を取りこう言った。
「ところで、最近、君の透き通った紅の瞳と同じ色をした赤ワインを手に入れたのだけど……今夜、私と付き合っては頂けないか?」


 そう、彼は類を見ないほどの女性好きなのだ。
 女性とあらば、子どもから老人まで誰彼構わず口説いて回る。
 この国のどこを探しても、彼に口説かれなかった女性はいないだろうと言われるほどだ。

「どうだろうか?」
 エドガーは侍女の手を取ったままにっこりと微笑み、侍女へ答えを催促した。
「…………………」
 侍女は少しの間、訝しげにエドガーを見つめていたが、その顔はしばらくして心配そうな顔つきに変わっていった。
「……エドガー様、やっぱりお疲れなんですね」
「?」
 その質問に、今度はエドガーが訝しんだ。
「いつものエドガー様なら、もっとマシな口説き文句をおっしゃってくださいますわ」
 グサぁぁぁ!……っと音がするほどに、その言葉はエドガーの胸に突き刺さった。
「だいたいエドガー様は最近ムリをし過ぎなんです。ココに篭られてから、もう丸二日は眠らずに仕事を続けられてるんですから……」
「い、いや、しかしだな……」
「しかしも何もありません!もし、エドガー様に倒れられでもしたら、それこそ大変なことになります!」
 その真剣な眼差しにエドガーはたじたじになってしまった。
 侍女はエドガーの手から自分の手をどけると、エドガーの背後に回りこみ、部屋のドアへ向かって押し始めた。
「さ、今からこの部屋をお掃除しますから、エドガー様はご自分のお部屋に戻られて、ゆっくりと休んでいてください」
 なすすべも無くエドガーは部屋を追い出され、振り向いたときには、部屋には鍵が掛けられるところであった。
「う〜ん……」
 顎に手を当て部屋の前でしばし考え込むエドガー。
「最近はレディも強くなってきたらしい」
 その声は少し感慨深い。
 王である自分に臆せずに、あれだけぽんぽん言ってのける彼女を見て、エドガーは1人の少女を思い出していたからだ。
「……やはり疲れているのか?私は」
 自嘲するようにそう呟く。
 戦いの日々はもう終わったのだ。例え、今がつかの間の平和が訪れているだけだとしても、エドガーはその平和を維持していかなければならない
 フィガロの王として……
「さて……これからどうするか……」
 寝室に戻ろうにも、今は模様替えの最中でゆっくりと休むことなどできない。
 機関室で整備の手伝いをしてもいいが、はっきりしない頭で手伝っても迷惑が掛かるだけだろう。
「ふぅ……」
 何とも無く溜息をつき、エドガーは行き先を決めずに歩き出した。



 ちょうどその頃。


 1頭のチョコボがフィガロ城へ向けて、黄金の砂漠を疾走していた。
 背中には、日よけのための茶色のローブを着込んだ何者かが乗っている。
 それだけ見ただけでは、性別はかなり判別がつきにくい。
 しかし、1つだけ特徴があった。
 小さいのだ、その人は。
 その小ささからいって、おそらく子どもであろう。
 だが、いくらチョコボがいるとはいえ、子どもが砂漠を1人で渡るなど無謀に近い。
 それでも、そんなことを感じさせないほど、砂埃を上げながら、チョコボは軽快に走り続けていた……




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